「トーチカ」は軍事施設の一つで、日本語では特火点と呼ばれる鉄筋コンクリート製の防御用の施設です。
最近、北海道の大樹町で、海岸に飛び出すように設置されていたトーチカが崩落したというニュースがありました。
トーチカは第二次世界大戦の末期に、本土決戦を見据えて多数造られ、浜松市の市街地にもひっそりと戦争の遺構としてトーチカが現存しています。
車で通るたびに気になってはいましたが、先日、浜松方面に仕事の際に時間が空いたので見学してきました。
幹線道路沿いにあるのですが、なぜか開口部(銃眼)が西を向いています。
米軍の侵攻を前提として、内陸部を防御するためのトーチカが、なぜ西(内陸側)を向いているのか不思議でなりませんでした。
暴れ天竜
20代後半から12年ほど磐田市に住んでおりました。
当時は職場は主に浜松市でしたので、磐田市から浜松市まで毎朝自動車で通勤です。
旧国道1号(現県道413号)を磐田市中心部から浜松市方面へ運転すると分かるのですが、かぶと塚公園、磐田警察署を抜けて西へ進むと、高低差のある坂をゆっくり下っていきます。
逆に、天竜川方面(東側)から半田山トーチカのある浜松環状線を西に走ると、長い坂を上ります。
この坂は上記の場所だけでなく、天竜川の流れに沿って多数の高低差がみられます。
航空地図内の赤い丸が半田山トーチカの場所、黄色い丸が磐田市の下り坂の地点です。
緑のラインは、暴れ天竜とも言われた天竜川によって削られてできた高低差(段丘)です。航空写真でもはっきりとその地形が読み取れます。
半田山トーチカの位置
米軍の侵攻は南から想定され、天竜川の浸食によってできた段丘の上にトーチカが位置しているのは理にかなっています。
現在の航空自衛隊浜松基地が半田山トーチカの南西にありますが、当時は陸軍浜松飛行場でした。
その北側に三方原飛行場があり、陸軍浜松飛行場と誘導路で繋がっていたようです。
上記地図の青い丸が三方原飛行場があった場所です。
半田山トーチカはこれらの軍事施設を防御するための施設であったことは、位置関係からもよくわかります。
最初の疑問に戻ります。
「なぜ西(内陸側)を向いているのか」です。
現地の状況
トーチカは平成2年に建てられた法源堂という石塔を納めたお堂の脇にあります。
お堂は比較的新しいため、トーチカの脇にお堂が建てられたといった方が正しいといえます。
幹線道路沿いにひっそりと現存しています。
向かって左が東側、右が西側です。少しわかりにくいですが、お堂の右下にコンクリートの塊が見え、西側を向いて開口しているのがトーチカです。
お堂から東側(天竜川方面)を望む。下っているのが分かる。
トーチカ本体。開口部まで土で埋まっています。
開口部の両側にあるフック状の金属。縦に並んでいるので、開口部を守る蓋のようなもの?が設置されていたのか、吊り下げ用なのかとも思いましたが、詳細は分かりません。
法源堂外観。左手に立て看板があります。
立て看板の最後に「トーチカの跡」という項目が記載されています。
以下転記いたします。
「太平洋戦争中、この舟岡山にはトーチカがいくつか築かれた。戦争が激化したため本土決戦に備えて構築したもので、その名残が今も見られる。幸いにもトーチカは使用されることはなく、平和な時代をむかえたいま、当社の新鋭工場が建てられ、活躍しているというのも新しい時代の流れである。
平成三年四月吉日 株式会社 桜井製作所」
戦後に移転か
ここまで、結論を引っ張っておいて申し訳ないのですが、正確な結論は出ませんでした。
ただ、以下のサイトにこのような記述もあります。
「道路工事に伴い現地に移動された。」
引用元:廃墟探検地図
https://haikyo.info/s/10215.html
推察1)
1972年に認定された静岡県道65号浜松環状線の工事によって、道路または周辺の用地にトーチカがあったため、現在の場所に移動した。その際に、なんらかの理由で開口部が西を向いて設置された。
推察2)
立て看板に「幸いにもトーチカは使用されることはなく、平和な時代をむかえたいま、当社の新鋭工場が建てられ」と記載があり、桜井製作所さんの工場が新設された際に、敷地内にあったトーチカを現在の場所に移転した。とも読み取れます。
桜井製作所さんの舟岡工場はトーチカのある場所から北のエリア(エディオンの北)にあり、目と鼻の先です。舟岡工場は1970年11月の稼働とのことですので、その際に移転された可能性もあります。
私なりの結論は
「1970年代に道路工事または桜井製作所舟岡工場の新設に伴い、現在の場所に移されその際に西向きに設置された。」
です。
移転は50年ほど前の出来事と思われますが、なぜ保存しておいたのか、なぜ西を向けたのかなど疑問は残りますが、私なりの結論は以上といたします。
静岡市に比べ、浜松市は戦争の遺構がいくつか残っているので、また散歩がてら見学してみたいと思います。
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